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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)218号 判決 1964年2月18日

控訴人 名方大介 外一名

被控訴人 国

訴訟代理人 水野祐一 外三名

主文

控訴人両名の控訴、及び、控訴人大介の当審における拡張請求を、いずれも棄却する。

控訴費用は控訴人両名の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、控訴人大介の請求について。<省略>

二、控訴人平二の請求について。

(一)  明石税務署長が、控訴人平二が同二五年六月二〇日、相控訴人大介に対し本件物件を贈与したものと認め、同二八年三月五日、控訴人平二に対し、資産再評価税二八、一一〇円及び無申告加算税七、〇〇〇円を賦課したので、同控訴人が、同月三一日、大阪国税局長に対し、右課税処分の審査請求をしたが、同三〇年六月一五日右請求を棄却されたため、同年七月四日、右国税局長を被告として、大阪地方裁判所に右審査決定取消の訴(同庁同三〇年(行)第五一七号事件)を提起し、右課税処分違法の事由として、同控訴人主張(1) ないし(3) の通り主張したところ、右訴訟けい続中である同年一〇月二八日前記税務署長において、本件課税処分には右(3) の違法、即ち本件物件贈与の日が同二五年六月二〇日ではなく、登記簿に記載された同年三月二〇日であり、従つて、資産再評価法附則第四項により課税できないのに課税した違法があることを理由に、本件課税処分の取消処分をし、右取消処分は翌二九日に効力を発生したので、同控訴人において右訴を取下げたことは、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、税務署長のした課税処分に、これを違法として取消さるべき甲の事由が存するのにかかわらず、課税当事者双方共、再調査ないし審査請求の段階においては勿論、審査請求が棄却され、これに対して行政訴訟が提起されるに至つた段階においても、右甲の違法事由が存することを看過し、乙丙の違法事由の存否のみについてこれを争つているうち、右訴訟けいぞく中、双方において甲の違法事由の存することが判明したため、税務署長において、これを理由に直らに右課税処分を取消し、続いて被課税者においても右訴訟を取下げた場合において乙丙の違法事由が存しなかつたか、仮に存したとしても、税務署長においてこれを存しないと判断して課税したことについて、故意又は過失がなかつたときは、右の通り甲の違法事由が存することを理由に取消されたことにより、結局課税処分は違法があつたことが確認されたことになるとはいえ、違法課税処分とこれが取消を求める訴訟の提起-ひいては、訴訟提起を委任した弁護士に支払い又は支払うべき報酬、手数料等訴訟費用以外の出費による損害-との間に、相当因果関係がないといわねばならない。けだし、税務署長ないし国税局長において、乙丙の違法事由が存しない適法な行政処分であると信じ、かつこの点につき故意、過失なくしてなした課税処分について、乙丙の違法事由が存すると主張する被課税者の不服申立を排斥するのは当然のことであり、これに対し被課税者の提起した訴訟に応訴することも又行政庁として当然とるべき態度であるというべく、従つて、右訴訟の提起は違法課税処分により結果されたものであるということができないからである。尤も訴訟けいぞく中被課税者において、甲の違法事由の存在を知り、これを乙丙の事由と併せて主張し、行政庁においてもこれを知りながら、依然として課税処分が適法であると主張して不当に抗争したことにより訴訟が遅延し、被課税者がその間余分の出費(訴訟費用を除く。)を余儀なくされたようなときは、不当応訴なる不法行為を原因として、右余分の出費による損害を請求し得るといわねばならない。

(三)  これを本件について考えてみる。

(1)  本件物件を、控訴人平二が訴外阿部三郎から買受けた後、これを相控訴人大介に贈与した事実があると認定してなされた本件資産再評価税課処分をするについて、明石税務署長に過失があつたといえないこと、しかしながら、右税務署長において、本件課税当時登記簿を調査していれば、本件贈与の日が昭和二五年三月二〇日であることが直ちに判明している筈であり、従つて、当時施行されていた資産再評価法付則第四項、同法第三六条により、本件課税処分をなすべきでないことが判明していた筈であるのにかかわらず、かかる調査をすることなく、右贈与の日を同年六月二〇日と誤認してなした本件課税処分は、この点に過失があつたといわねばならないことについての当裁判所の判断は、「成立に争いのない甲第一三号証の一、二によれば、訴外菅郁蔵が、昭和二七年一〇月二七日及び同年一一月七日の二回に、控訴人大介から、本件物件買入資金として同控訴人に対し立替支出していた合計金一、九〇〇、〇〇〇円の弁済を受けた旨記載された領収証が作成されている事実が認められるところであつて、この事実を原判決認定の事実と綜合して考えると、仮に、控訴人平二が本件物件を買受けたものでなかつたとしても、明石税務署長が前示の通り認定したことについて過失があるといえないこと(故意があつたといえないことはいうまでもない。)、及び当審における控訴人平二の全立証によつても原判決の認定を左右することができないこと」を附加するほか、原判決に判示するところ(原判決理由三項一一行目から五五行目ならない。まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

(2)  ところで、原本の存在ならびにその成立について争いのない申第二号証、成立に争いのない同第四一、第四二号証、同第六六ないし第七二号証、原審ならびに当審における控訴人両名各本人尋問の結果に、本件弁論の全趣旨を綜合すると、本件課税処分がなされた昭和二八年三月五日頃はいうまでもなく、控訴人平二からこれに対する審査請求をし、大阪国税局長の審査請求棄却決定がなされ、これに対して行政訴訟が提起された同三〇年七月頃においても、捜訴人平二は勿論、明石税務署長、大阪国税局長も、同控訴人主張(3) の違法事由(贈与年月日誤認の事由)が存したことに気づかず、もつぱら同主張(1) 及び(2) の違法事由(控訴人平二が本件物件の所有権を取得した事実がないこと、及び、同控訴人が本件物件を控訴人大介に贈与した事実がないこと)の存否について抗争していたところ、右訴訟提起の委任を受けた弁護士藤井信義において、訴訟提起後である同年一〇月初頃、はじめて右(3) の違法事由を発見し、同月三日附準備書面に右違法事由をも附加して主張したので、明石税務署長において直ちに登記簿を調査して右違法を確認した上、同年一〇月二八日、右違法事由があることを理由に本件課税処分を取消したので、同年一二月一日、控訴人平二においても右行政訴訟を取下げたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠がない。

(3)  以上の事実関係の下において、控訴人平二が、右行政訴訟提起を委任した弁護士に支払い、若しくは、支払うべき報酬、手数料を、前示税務職員の違法課税処分ないし不当応訴による損害として国に対して請求し得ないことは、前示(二)に説示したところに照していうまでもない。

(4)  控訴人平二は、本件違法課税処分により、金五〇、〇〇〇円相当の精神上の損害を蒙つたと主張するところ、この点に対する当裁判所の判断は、原判示の事実に、右(2) 認定の事実を綜合して考えると、同控訴人が本件課税処分により、賠償を求める程の精神的損害を蒙つたものと認めることができないことを附加するほか、原判決理由三項(二)に説示するところ(但し同項一三行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

(四)  そうすると、その余の点について判断するまでもなく、控訴人平二が被控訴人に対し、本件課税処分による損害賠償請求権を有しないといわねばならないから、右請求を棄却した原判決は結局正当で、本件控訴は失当として棄却されねばならない。

三、よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野田常太郎 柴山利彦 下田義明)

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